研究概要 |
本研究の目的は,教師が自らの<授業スタイル>を構築していく過程を,ライフヒストリー的アプローチによって事例研究を積み上げながら明らかにしていくなかで,教師集団における教師文化(あるいはその教師が所属する学校の学校文化)と,個々の教師における授業力量の形成過程との相互作用の関係を問うことにある。 なお,本研究のキーワードでもある<授業スタイル>を,教師の授業づくりにかかわる無数の意思決定の集積として暫定的に定義する。さらに<教師文化>とは,その教師が属する学校独自の<組織文化>ともいうべきもので,個々の教師の実践創造や実践研究を支える<暗黙知>的な様相と<形式知>的な様相を併せ持つものとして暫定的に定義した。 本年度は,昨年度研究協力を依頼して事例研究のためのデータを蒐集したN小学校(附属)における9名の教師のうち,2名の教師(男性教師1名,女性教師1名。ともに50代前半,在籍年数は18年と23年)のライフヒストリー並びに授業観察の記録をもとに,分析・考察を加えた。これらの事例研究を通して,以下の2つの点が明らかになった。 1、師文化>は、教師集団におけるコミュニケーションの様式や道具,人と人との関係のみならず,その学校に通う子どもの学びの様式(スタイル)や規範によっても影響を受けることから,今後は教師の<授業スタイル>と<字校文化>との関係性を視野に入れた研究が必要である。その際<学校文化>とは,個々の学校組織に所属する構成員(教師・子ども)が歴史的に形成・選択・創造・継承しながら,時に変容させていく信念・慣習・伝統・思考法の総体としてとらえることとする。 2、N校における学校文化を支える基盤は,自律した学習者へと育つように指導していく,つまり「自律への強制」あるいは「自律のための規律づくり・型はめ」であることが明らかになった。ここで言う「型」とはしつけ糸のような存在であり,いずれはずれていく,あるいははずすことを前提に与えるものであり,したがって,教師は子どもに与える型や自律への強制の場がもつ作用力に対して相当の自覚が要求されるのであり,子どもの育ちの実相をいかに判断して,型の与え方やそのタイミング,子どもに委ねる部分を増やしていく加減に対する自律的判断が問われる。N校においては,自律した学習者という自指す子ども像を描いている一方で,教師たち自身も自律した実践者たることを要請される文化があり,それが大正期より継承されてきたことが浮き彫りになった。 なお,本研究の成果は2005年9月24・25日に開催された日本教師教育学会第15回研究大会(@北海道教育大学釧路校)にて発表した。
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