研究概要 |
●走化性粘菌の凝集現象や,統計力学におけるFokker-Planck方程式の断熱極限として現れるparabolic-elliptic system(自己相互作用粒子系)は,そればかりに留まらず,広く自己相互作用のある現象の数理解析のモデルとして重要である.数学的な観点からは,近年,自己相似解や爆発機構の量子化などの解析的な性質が解明されつつある.これらの解析的研究を数値シミュレーションの立場から支える目的で,自己相互作用粒子系の数値スキームの開発に取り組んだ.この系の基本的な性質として,正値性の保存,全質量の保存,Lyapunov関数の存在があり,これらの性質の離散化版をすべて有するような数値スキームの構成を第一の目標とした.まずは上流近似を応用した差分法でスキームを構成することに成功したが,その際,離散的Lyapunov関数の実現のために,凸解析の議論を応用して,時間離散化に独自の工夫を行った.結果として導かれたスキームは元の方程式のある種の線形化に対応していて,数値的な実行が容易になるという思わぬ副産物を得た.そして,このスキームによる数値実験結果が解析的な理論の発展にも大きく寄与した. ●上記の差分法の研究に引き続き,有限要素法による近似スキームの構成と,その解析を行った.Baba-Tabata型の上流有限要素近似を利用して,正値性保存と,質量保存性を再現する有限要素スキームを構成した.また,差分法の際にはまったく手付かずだった誤差解析にも成功した.上流化に意味を持たせるためには,誤差の$L^p$評価を求める必要がある.ただし,$pin(d,mu)$であり,$d$は空間次元,$mu$は領域の形状から決まる正定数である.$L^p$空間上での解析半群の理論,作用素の分数冪等を利用して,実際にその評価を導出した.その結果は,かなりsingularな解にも適用できるものである.
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