研究概要 |
本研究課題の研究期間のうち本年度は、主に重い電子系化合物において最近発見され国内外で精力的に研究が行われている多重相の競合状態と量子臨界現象に注目し、それらと結晶の対称性の関係に主眼を置いた研究を行ってきた。以下にそれらの研究のうち、主なものについてその成果の概略を示す。 重い電子系化合物CePd_2Si_2(ThCr_2Si_2型体心正方晶)はT_N〜9Kで反強磁性転移を示す物質であり、その磁気構造はモーメントが[110]方向に偏極し、秩序ベクトルq=[1/2,1/2,0]をとることが知られている。近年、静水圧下における実験において、反強磁性相が消失する圧力(P_c〜28kbar)近傍で超伝導が発生することが明らかになり、重い電子系における圧力誘起超伝導物質のさきがけとして精力的に研究が進められている。圧力誘起超伝導についての実験はこれまでのところ、静水圧を印加したものがほとんどであるが、最近の実験において、試料に加わるわずかな一軸応力成分によって反強磁性や超伝導に関する圧力-温度相図が大きく変化するという結果が報告された。このことは、反強磁性の抑制と超伝導の発生に体積歪み以外の歪みが寄与している可能性を示唆しており、磁性と超伝導の関係を格子歪みの観点から考慮する上で興味深い。そもそも、量子臨界点近傍で超伝導を誘起する物質の多くは、結晶の対称性が立方晶より低いことや強い磁気異方性を持つことより、体積歪み以外の結晶歪みが物性に強く寄与している可能性がある。そこで我々はCePd_2Si_2の反強磁性相に対する一軸応力下効果を中性子弾性散乱実験によって調べた。その結果、反強磁性の安定性は一軸応力印加方向に依存することを明らかにした。この実験の解析の結果、反強磁性の抑制には静水圧で主に制御する体積歪みとほぼ同程度に、格子定数比c/aの増大が有効であることを明らかにした。
|