研究概要 |
これまで,TlCuCl_3という物質で観測されている磁場・圧力誘起量子相転移について理論的研究をおこなってきた。磁場誘起量子相転移の場合の磁気励起については,ボンド演算子の方法を用いることにより,中性子散乱で観測されている実験結果を定量的に説明することに成功している。このような磁場・圧力誘起量子相転移に関して,超音波測定によって,弾性定数の異常が見出されている。本研究では,このような弾性定数の異常について,ギンツブルク・ランダウ理論を適用して調べた。その結果,実験で観測されている弾性定数の異常な振る舞いが,量子相転移にともなう特徴であることを明らかにした。 アズライト[Cu_3(Co_3)_2(OH)_2]と呼ばれる磁性体でも,磁場誘起量子相転移が観測されている。電子スピン共鳴の実験では,g因子が量子相転移にともなって大きく変化することが報告されている。これに対して,TlCuCl_3と同様な理論を適用して調べた結果,g因子には量子相転移の特徴が現れることを明らかにし,2005年に開かれた強相関電子系の国際会議において報告した。 d電子系だけでなく,f電子系についても磁場誘起量子相転移が観測されている。スクッテルダイト[PrOs_4Sb_<12>]と呼ばれる物質では,TlCuCl_3と非常によく似た励起モード(四極励起子)が存在している。しかし,この物質では低温で超伝導が実現するという大きな特徴がある。そこで,超伝導の起源として,四極励起子を媒介としたモデルを仮定して説明を試みた。今のところ,このモデルを支持する直接的な強い証拠は得られていない。今後の実験結果を期待している。
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