研究概要 |
微小重力環境下における粉体気体(Granular Gas)の基礎研究は、例えば微惑星上における粉体の流動化やパターン形成を工学的に利用するといった次世代の宇宙産業に直結する重要な研究課題であると同時に、「不可逆過程の統計力学」を推進するプロトタイプとして理論的発展が大きく期待できる。このような観点から、微小重力環境における粉体気体の応答や統計則に関する研究を行なった。 (a)無重力環境の粉体気体と流体乱流との類似性を理論解析やシミュレーションにより精密化させた。2次元自由減衰非弾性剛体球(粉体気体)モデル2次元ナビエストークス乱流との類似点に着目し大規模数値シミュレーションを実行した,低密度でエンストロフィーカスケード、高密度の最終アトラクター状態で2次元乱流におけるBose凝縮様な現象が生じることを数値的に示した。無重力環境におけるこれらの結果は、乱流の起源に迫るひとつの方法論を与える重要な意義を持っている。これらの成果は、ドイツで行なわれた粉体の国際会議(2005.7)で発表した。 (b)粉体同士の微視的な衝突則と微小重力場の関係を系統的に研究するため、振動板に駆動された粉体層(粉体振動層)の非平衡定常状態においてスケール不変な非平衡パラメーターを考察した。これらの系は従来、重力定数は加速度振幅と呼ばれる無次元パラメーターでスケールされると考えられてきた。しかし現実には、粉体は衝突速度により反発係数が連続的に変化するため、微小重力場では粉体の反発係数は弾性衝突に近くなり、粉体層の巨視的物理量や動的性質に影響を与える。シミュレーションの結果、一定反発係数(人為的に作成した)を使った過去の文献の延長線上(線形結合)では説明がつかず、複雑な協同現象が巨視的物理量に定量的な影響を与えることがわかった。また、一定反発係数を包括する速度依存型反発係数に拡張されたスケーリング則の模索をした。このような定量的予測は、粉体振動層を宇宙産業へ工学的利用する際に重要な基礎となると考えられる。また「微小重力環境に拡張された非平衡パラメーター」探索は粉体振動層の基礎研究のみならず不可逆過程の統計力学の発展としても期待できる。これらの成果は、物理学会(2005/3,9,2006/3)、数理解析研研究会(2005/11)で発表し、現在論文としてまとめている。
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