研究概要 |
熱帯海洋域で発達する降水雲の中での降水粒子,雲粒子の振る舞いは雲の組織化,維持機構に大きく関与しているとともに,雲内でのエネルギー収支は大気大循環を駆動するエネルギー源として地球規模の気候を左右する。さらに,熱帯海洋域では多島域と比べ,雷発生頻度が圧倒的に少なく,上層の氷粒子の数濃度が異なることがその原因と言われているが,その観測例は海洋上という限られた観測条件のため乏しいままであるのが現状である。これまでの雲内の降水粒子の直接観測は航空機だけでなくビデオカメラを搭載したビデオゾンデが開発され,さまざまな観測が行われてきた。ゾンデの最大の利点は観測対象の雲に対して降水粒子の鉛直分布を知ることができることであるが,これまでは陸地からの観測のみであり,海洋上の船舶から飛揚した例はない。本研究ではビデオゾンデを独自に製作し,それを用いて,海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」の西太平洋域のMR04-08観測航海(2004年12月12日〜2005年1月10日)に参加,「みらい」船上からビデオゾンデを飛揚し,雲内の降水粒子の画像を捉え,熱帯海洋域に発達する降水雲内の微物理構造を明らかにすることを目的とした観測を行つた。なお,当初予定されていたドロップゾンデによる観測研究はMR04-08航海における航空機観測が急遽中止されたため,地上放球型ビデオゾンデを改良・製作し,観測を行った。Takahashi(1990)による降水粒子ビデオゾンデを軽量・低コスト化することでコストで約3分の1,重量で約3分の2まで押さえることができた. 平成17年度は,みらい観測航海MR04-08期間中に得られたビデオゾンデデータの詳細な解析を行った.その結果,熱帯西太平洋上に発達する降水雲内では,TOGA-COAREなどの報告と同様,Warm Rainプロセスによる下層の雨滴形成が支配的であった.0℃層よりも上層に見られた霰は凍結氷起源と推測され,氷晶形成プロセスが相対的に弱いことがわかった.また,層状域で観測されたAggregateは,凍結氷あるいは霰が凝集したものであることが示唆され,中緯度とは異なる降水機構が確かめられた.これらの結果は日本気象学会およびIAMAS (International Association of Meteorology and Atmospheric Sciences) Beijing2005において成果発表した.
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