研究概要 |
1.現有の磁場コイル(3kG)と真空容器(内直径16cm,長さ200cm)を利用し,ドーナッツ状電子銃とフラーレンC_<60>昇華用オーブン付きの加熱銅円筒が設置されている.高エネルギー電子衝突電離によって正イオン(C_<60>^+)が生成され,低エネルギー電子付着によって負イオン(C_<60>^-)が生成されている.生成された負イオンを電位差(0〜200V)をつけた2枚のグリッド間で積極的に静電加速させて,下流域に存在する中性フラーレンや正イオンと衝突させた.グリッド電位差をコントロールパラメータとして,負イオンビームエネルギーを変化させてダイマー合成を行った. 2.衝突処理したフラーレンサンプルをMALDI-TOFMSによって質量分析を行ったところ,質量数1452を持つ物質が確認された.これはC_<121>に相当する質量であり,フラグメンテーションC_2から供給されたCと,C_<60>が2個から成るダイマーであると考えている.ダイマーが合成される負イオンビームエネルギーには,最適なエネルギー範囲(60〜180eV)が存在する.積極的な負イオン加速・衝突によって,ダイマー合成量を大幅に向上させることができた. 3.TOFMSによって質量分析する際に,レーザによってイオン化しているが,レーザ照射によってダイマーが合成されるという報告がある.そこで,LDI-TOFMSよってレーザ強度に依る質量スペクトルの変化を調べた.C_<60>単体にLDIした場合は,レーザ強度がある閾値を越えるとダイマーC_<119>が主に観測されて,C_<121>は観測されない.すなわち,C_<121>はLDIではなくプラズマプロセスによって合成されたと言える. 4.既に報告されている合成されたダイマーは,結合力の弱いダンベル型が主である.材料応用のためには,結合力の強い融合型のダイマーであることが望ましい.レーザ照射や中性ガスとの衝突によってダイマーは解離する.レーザ強度を高めてLDIによって解離されるとC_<112>+nC_2の一連のフラグメンテーションしたダイマーが形成された.ここでも,ほとんどC_<119>は形成されていない.更にMALDIによってイオン化したダイマーを静電加速(加速電圧20kV)して,窒素ガス分子と衝突させた(CDI).ここで,フラグメンテーションしたダイマーは観測されなかったことから,C_<121>の結合力は強いと言える.以上のことから,フラーレン負イオン加速・衝突によって合成されたダイマーは,結合の強い融合型であると考えられる.
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