研究概要 |
強電磁場中におかれた原子・分子の電子構造を解明することを目的とした理論研究を行い,本年度は以下に示す1-3の成果を得た. 1.レーザープラズマ中における原子の電子構造 強レーザー光と固体表面やクラスターとの相互作用によって生成する,高温・高圧の「レーザープラズマ」中における原子およ原子イオンの電子構造を解明することを目的として,Debye遮蔽モデルに基づく多電子ハミルトニアンを構築した.このモデルをHeおよびLiに適応し,遮蔽パラメーターの関数としてエネルギー準位構造および振動子強度の変化を明らかにした.さらに2次のDouglas-Kroll変換に基づく相対論の定式化を導入することによって,「相対論的Debye遮蔽モデル」を構築し,核電荷が大きい原子および多価イオン原子についてプラズマ環境下における電子構造の計算が可能となった. 2.強外場中に閉じ込められた電子系のエネルギー準位構造 強外場による閉じ込めを調和ポテンシャルを用いて表現し,ナノスケールの擬2次元調和ポテンシャル中に閉じ込められた少数電子(N=2,3,4)のエネルギースペクトルおよび電子密度分布を多参照配置間相互作用法を用いて計算した.その結果,スピン多重度が大きい状態ほど電子相関の効果が小さいこと,および,閉じ込めの強さが小さくなるに従い,多電子励起に起因する全角運動量が大きい状態が低エネルギー領域に現れることが見出された. 3.Kramers-Henneberger-Floquet法に基づく強レーザー場中における原子・分子の電子構造 任意のレーザー波長における原子・分子のドレスト状態を計算するために,「高周波数フロケモデル」を拡張し,フロケ空間における異なる光子数状態との結合を非摂動的に扱うことによって,任意のレーザー波長において成立する多電子ドレスト状態を計算する方法を開発した.この方法を,HeおよびLiに適用し,ドレスト状態における電子状態の計算を行った.その結果,真空状態におけるHeおよびLiの電子基底状態は,800nmの直線偏光レーザー場が照射された場合には,0.003auのレーザー電場強度において,Heはほぼ真空の電子状態を保持するのに対して,Liは零光子チャンネルにおいて,p性の電子状態が基底状態となることが示された.
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