研究概要 |
ペルスルフィド錯体[WO(S_2)(L)_2]^<2->(L=1,2-benzenedithiolate(1),cyclohexene-1,2-dithiolate(7))をそれぞれのW(IV)錯体[WO(L)_2]^<2->(2,8)とS_8との反応により合成した。[WO(S_2)(maleonitrile-1,2-dithiolate)_2]^<2->(4)は文献の方法に従って合成した。錯体1の構造解析の結果,W中心は上図のような五方両錘構造をとることがわかった。1のW-S(ペルスルフィド)結合距離は錯体4のW-S距離より長く,錯体1に含まれる配位子の比較的強いドナー性の影響が反映されている。 錯体1の電子スペクトルは温度によって可逆的に変化することが明らかとなった。253Kでは413および480nmに吸収極大を持つ錯体1として存在するが,温度を353Kに上げるとこれらの吸収が減少して新たに613nmに吸収極大を持つ[WO(1,2-benzenedithiolate)_2]^-(3)が生成する。 温度を上げた際に生成した錯体が錯体1からペルスルフィド基を解離した錯体2ではなかったため,逆反応としてW(V)の錯体3とNa_2S_4とを反応させたところ,錯体1が生成した。錯体4および7について配位硫黄の解離を検討した。錯体1より弱いドナー性の配位子を持つ錯体4は353Kでも電子スペクトルに変化はなく配位硫黄の解離はおこらなかった。これは構造解析から明らかになったように,錯体4のW-S結合は錯体1よりも強いことと一致している。アルキル置換基を持つ配位子の錯体7/9は可逆的な硫黄化反応を示すが,錯体1よりもより低温(223K)にしないとペルスルフィド錯体7は生成せず,室温付近では錯体9として存在している。本反応の各温度における平衡定数から計算した硫黄解離反応に対するエンタルピー変化(ΔH)は,1→3および7→9に対してそれぞれ73kJmol^<-1>および47kJmol^<-1>と求められ,錯体7のW-S結合は錯体1よりもさらに弱く,解離しやすいことが示された。このように,本系ではW-S結合の強さを配位子の置換基による電子的効果によって調節でき,硫黄化反応の平衡を制御できることがわかった。
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