研究概要 |
すでに確立した新たなパロキセチンの効率的合成法においてその鍵段階となる対称イミド類の水素化の不斉収率について精査したところ独自に開発したキラルCp*Ru(PN)錯体触媒と基質の構造の組み合わせによって>99%以上のエナンチオ選択性で対応する生成物が得られることを明らかにした.得られた生成物は光学純度を損なうことなく抗鬱剤光学活性パロキセチンに短行程で変換することができる.またキラルCp*Ru(PN)錯体をもちいるアリルアルコールの異性化において動的速度論的分割が円滑に進行しラセミ体原料より対応するケトン類が最高72%eeで得られることを見いだし,工業原料よりわずか4工程で光学活性ムスコンの合成が可能であることを示した.さらにアセトンを酸化剤とする非対称1,4-ジオール類の酸化的ラクトン化についてはCp*Ru(PN)錯体触媒のPN配位子の骨格を変化させることでレジオ選択性の制御が可能であることを明らかにし,抗腫瘍性リグナン類の重要中間体であるβ-アリールメチル-γ-ブチロラクトンの高効率合成法として十分な実用性を備えていることを確認した.さらに同様の錯体触媒によってアセトン存在下トリオール類が高位置選択的にラクトン化され,γ-ブチロラクトンのみを生成物として与える極めてユニークな反応を見いだし,L-Factorやムリカタシンなどの生理活性天然物が効率良く得られることを示した.またこれらいずれの反応においても鍵となるCp*Ru(PN)錯体の新規合成法を見いだし,さらに洗練された触媒反応の確立に向けて錯体分子のデザインの可能性を広げている.
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