研究概要 |
基本解法(代用電荷法)は科学技術計算に現れる偏微分方程式問題の解法のひとつであり,計算が簡便で,かつ,適切な条件下で高精度(指数関数的収束)を達成するという特徴を持つ.本研究は,この基本解法の改良・発展を目的とする. 1.1次元周期性を持つ2次元弾性問題 この問題は具体的には,無限に広がる弾性板に同じ孔が一列に無限に並んでいる場合,あるいは,周期的に変化する荷重をかける場合などに相当する.この問題は理論・応用両面から重要であるが,解が周期関数を含むため,従来の基本解法は適用困難とされていた.従来の基本解法ではKelvin解,すなわち,単一の点荷重による弾性変位を重ね合わせて近似解を構成している.これに対し本研究では,周期的基本解,すなわち,周期的に並んだ同じ強さの無限個の点荷重による弾性変位を重ね合わせて近似解を構成する方法を提案している.さらに数値実験によりこの方法の有効性が確かめられている.本論文で提案する方法は,従来の基本解法の長所である計算の簡便さ・高精度を引き継ぎつつ,従来適用困難とされていた周期的問題に基本解法を適用可能としたという点で画期的であるといえる.本研究成果は国際会議ICNAAM2005(2005年8月,ギリシャ)で発表し,現在論文投稿中である. 2.2次元修正を持つ3次元弾性問題 この問題は具体的には,無限に広がる3次元弾性体に同じ孔が平面格子状に無限に並んでいる場合,あるいは,2重周期的に変化する荷重をかける場合に相当する.この問題にも,前項と同様,周期的基本解の重ね合わせで近似解を構成する方法を提案し,数値実験により有効性を確かめた.この研究成果は,計算科学研究ステーション研究集会(2006年3月,電気通信大学,東京)で発表し,現在論文投稿の準備中である. 3.関連研究 周期的場における流体(Stokes流)問題,圧縮性流体問題に対する基本解法の拡張に関する論文を発表した.また,Bessel関数を用いた数値積分に関する研究論文も発表した. 4.研究成果を振り返って 当初の研究計画では,境界に角をもつような複雑な形状の領域に対する代用電荷法の改良も計画していたが,問題の困難さからこの研究の実行は叶わなかった.これは基本解法(代用電荷法)の限界かも知れず,積分方程式法など他の解法との組み合わせなどを考慮する必要があるかもしれない.
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