研究概要 |
本研究では,代表的な結晶性生体吸収性プラスチックであるポリ乳酸(PLLA)を対象とし,熱処理を施すことにより,結晶化度・結晶サイズを制御し,擬似生体環境中にて力学的負荷下での分解過程を詳細に観察することにより,分解による強度・弾性率の低下のメカニズム及びそれらに及ぼす結晶化度・結晶サイズの影響を明らかにする.また,生体活性セラミックスをフィラーとして用いることによりより力学的生体適合性に優れた生体吸収性複合材料を作製し,擬似生体環境中における同様の挙動を明らかにする.以上をもって医療用接合材料としてのポリ乳酸における材料設計の指針を得る.本年度行ったことは下記のとおりである. ・様々な結晶化度・結晶サイズを有する試料に対して,引張試験を行い,巨視的な特性を取得した.70℃24時間熱処理を施したものが最大の強度を有し,熱処理温度・時間の増加に伴い,強度が徐々に低下することが確認された.また,弾性率は結晶化度の増加に伴い,増加することが確認された.これらは昨年度行った曲げ試験における挙動と一致した. ・リン酸緩衝液浸漬に30週浸漬させた試験片に対し引張試験を行ったところ結晶化度が最大である130℃24時間熱処理試験片は分解が進行し強度・弾性率がほぼ0となることが確認された.また熱処理条件によらず分解機構は表面分解や塊状分解ではなく,内部加速分解であることが確認された. ・生体吸収性セラミックスであるリン酸三カルシウム(TCP)を強化材として用いたポリ乳酸複合材料の4〜16週浸漬試験を行った.16週までの浸漬では強度・弾性率ともにほとんど変化せず,骨折の完治期間である30週を考えると十分な力学的特性を有していることが確認された.また昨年度行ったマイクロメカニックス及び損傷力学にもとづく解析を用いて,引張負荷時の応力-ひずみ挙動の予測を行った.
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