研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)は21世紀で最も重要な新材料の一つになると期待されており,従来の炭素繊維と同等のアスペクト比と従来の炭素繊維よりも優れたヤング率および引張強さを有することから,樹脂材料にフィラーとして添加して射出成形することによって,従来よりも少ない添加量で成形品の機械的特性をさらに向上させることができると考えられる.特に,CNTは直径がナノオーダーであるため,マイクロギヤやマイクロ流路に代表される微小部品等に新たに機能を付加するための充填材として適用できると考えられるが,これまでに微小な製品や薄肉製品に関する報告は少なく,特に長さの違いによる特性の評価はこれまで行われていなかった.そこで本研究では,CNT複合材料の微細部品への適用を視野に入れ,長さが機械的・熱的特性に与える影響について調べることを目的とする. 平均直径が80〜150nmで平均長さ2.9μmと4.5μmの比較的結晶性の高いCNTを用いて複合材料を作製し,射出成形したサンプルについて熱的特性を調べたところ,以下のことが明らかになった.CNTは繊維状であるため,射出成形における樹脂流動においてほぼ流動方向に一様に配向することがわかり,流動方向に垂直と平行に配向させた試験片を作製した.マトリクス樹脂にPPを用い,CNT濃度を変化させたサンプルについて測定したところ,レーザーフラッシュ法での測定方向にCNT配向させた場合は10vol.%と比較的低濃度の場合でも2.2W/mKであるのに対し,測定方向に配向していないサンプルでは,0.7W/mKと低い値にとどまった.またCNTを31vol.%添加することにより3.4W/mKというPPの16倍の高熱伝導率を得た. 次にEMA法により理論予測を行った.本実験で用いたCNTは結晶性が高いため,CNT単体のもつ熱伝導率を200W/mKとして計算を行うとほぼ理論値と一致することがわかった.この理論計算によるとアスペクト比が大きく影響し,例えば長さ10μmCNTとすると,およそ5倍の約20W/mKに達することがわかった.
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