研究概要 |
本研究では,境界潤滑作用を発現する代表的な境界膜として,脂肪酸境界膜を対象とし,その物理的性質と潤滑特性について,巨視的観点および微視的観点から,総合的に検討した.巨視的観点からは,古典的な往復動すべり摩擦試験機により,脂肪酸境界膜の潤滑特性について検討した.既往の研究との比較を交えながら,潤滑特性に及ぼす基油および脂肪酸の分子鎖長の影響をまとめた上で,古典的手法の限界について考察した.一方,微視的観点からは,巨視的手法と相補的なアプローチとして,力学的計測に基づく手法および電気的計測に基づく手法の2種類の方法で検討した.まず,微視的観点からの第1の検討としては,力学的計測に基づくナノレオメータにより,脂肪酸境界膜の機械的性質を検討した.脂肪酸境界膜には,流体的挙動を示すmobile layerと,固体的挙動を示すimmobile layerが存在することを見出し,溶質-溶媒相互作用としてのchain matching効果は,主としてimmobile layerに発現することなどを見出した.次に,微視的観点からの第2の検討としては,電気的計測に基づくナノレオメータによって得られた,脂肪酸境界膜の構造について検討した.鋼-油-水銀系を対象とすることで,真実接触面積が見掛けの接触面積と等しくなる系を理想的に作り出し,境界膜の膜厚と被覆率の同時計測を達成した.形成される境界膜の多くに基油分子が含まれており,その境界膜は粘弾性的挙動を発現することなどを見出した.そして,以上の異なる3種類のアプローチにより得られる脂肪酸境界膜の描像を総合的に考察し,脂肪酸境界膜が示す境界潤滑作用のメカニズムについてまとめ,既往の古典的な境界潤滑モデルにおける問題点を考察した.
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