研究概要 |
カーボンナノチューブはグラフェンシートが筒状になった,直径が数nm程度,長さが数十μmの非常にユニークな極細チューブ構造である。ヤング率は1Taを超える硬さを有していながら,折り曲げても破壊されずに復元する柔軟性をあわせ持っている.カーボンナノチューブを基板に薄膜状に生成したものをカーボンナノチューブ薄膜と称しており,カーボンナノチューブがスパゲッティ状に絡み合ったものや,基板に垂直配向した形状のものなどが存在する.優れた機械的特性を有するカーボンナノチューブで構成され,その構造も繊維状薄膜と非常に特異なカーボンナノチューブ薄膜は,従来の薄膜とは異なった性質を有していると考えられる.本研究において、μNレベルでのカーボンナノチューブ薄膜のマイクロトライボロジー特性について調べた。その結果、ニッケルやアルミ表面などで見られる水分子吸着よる凝着力は全く観察されなかった。摩擦力は押付けに比例し、摩擦速度や見かけの接触面に関して影響は受けなかった。これは良く知られている一般的な摩擦法則であるアモントン-クーロンの法則に従っている。しかしながら摩擦力-押付け力の比例関係から摩擦係数を求めてみると、1を超えるたいへん高い値であった。さらにこの摩擦現象を解明するために走査型電子顕微鏡(SEM)内にマイクロトライボロメーターを組み込んだ装置を開発し、摩擦のその場観察を行った。その結果、摩擦係数が1を超える高い値でありながらカーボンナノチューブ薄膜表面は1000回近くの繰返し摩擦にたいして、摩耗が全く観察されなかった。このような結果から,カーボンナノチューブ薄膜の応用はミクロの世界の摩擦材として最適であることが明らかとなった。すなわち,マイクロマニピュレーターなどグリップ部のの表面にカーボンナノチューブ薄膜を用いれば,離したい時はその低凝着力特性によって容易に行なえ,しっかり掴みたいときはその高摩擦力で保持することができる。このように本研究では,カーボンナノチューブ薄膜のマイクロトライボロジー特性を解明したのみでなく,その応用面についても道を開いた.
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