研究概要 |
前年度までの研究により蛋白質が摩擦面に吸着することで摩耗を低減させることが明らかとなった.ハイドロゲルの摩耗は潤滑液に含まれる蛋白質の種類・添加量・添加比に依存した.蛋白質として生体関節液に含まれるアルブミン及びγ-グロブリンを使用したが,それぞれ摩擦摩耗に対する役割が異なると思われた.蛋白質の吸着挙動は分子量・親疎水基の割合・電荷の状態等に影響されると思われる.蛋白質の立体構造は上記の蛋白質の特性に影響されるため,総合的に吸着に対する蛋白質の挙動の差異を調べることができる.本年度は蛋白質の立体構造に着目し,その影響について調査した.蛋白質の立体構造を知るために円二色性分散計を用いた。それぞれの蛋白質の円二色性を測定することで立体構造がどのようになっているかを把握することができる.その結果,アルブミンはαヘリックス構造を,γ-グロブリンはβシート構造をそれぞれ多く有することが明らかとなった.さらにそれぞれの立体構造の摩擦摩耗への影響を調べるため,往復動摩擦試験を行った.その結果、αヘリックス構造はβシート構造に比べ吸着力が弱く,せん断を受けると表面から脱落しやすいことが明らかとなった.前年度までの研究からアルブミンとγ-グロブリンが層状に吸着した境界膜において摩耗低減効果がみられたことから,吸着力の弱いαヘリックス構造を多く有するアルブミンと強固な吸着力を持つγ-グロブリンがそれぞれ摩擦低減、摩耗低減効果を有すると思われる.また,加熱により立体構造を変化させるとアルブミンでは摩擦が低減することが観察された.加熱によりαヘリックス構造が失われランダムコイルとなり吸着力が増加したために境界潤滑膜としての機能が向上したと思われる.
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