研究概要 |
熱力学の第2法則によれば,熱は何もしなければ,高温の物体から低温の物体に伝えられる.この法則に従えば,乱流中での運動量フラックス,熱フラックスは,乱流中に重畳した平均速度勾配や温度勾配を減らす方向に働く(順勾配拡散).ただし,これは平均を取らない瞬間,瞬間の乱流現象には当てはまらない.すなわち乱流場において局所的には運動量,熱フラックスが平均速度勾配,平均温度勾配を増大させる方向に働く場合がある(逆勾配拡散).特に,密度成層乱流にはこの逆勾配拡散現象が顕著に表われ,空間平均した統計量にも長時間に渡って生じるため,乱流モデルを用いた流れの予測を困難にしている. せん断乱流中では,縦渦構造が乱流応力,熱流束の順勾配拡散に強く寄与しており,浮力の影響が弱ければ,生じた逆勾配拡散を容易にキャンセルする.したがって,乱流中で順勾配拡散に比べて逆勾配拡散がいかに卓越するかは,浮力が縦渦に及ぼす影響を明らかにすることが必要である.本研究では,安定密度成層下において浮力項と対流の相互作用により,縦渦の上下に発生する逆勾配の領域が増大し,縦渦の左右の順勾配拡散の領域が減少することが明らかにし,Int.J.Heat and Mass Transfer誌に掲載した.また,512x512x512の計算も行い,レイノルズ数の増大が順勾配拡散と逆勾配拡散に及ぼす影響について明らかにした. さらに本年度は,プラントル数の変化(低プラントル数効果)が密度成層下のせん断乱流に及ぼす影響を調べた.この結果,低プラントル数下においても,浮力による乱流の抑制効果が見られる一方で,空気流で見られた逆勾配拡散の増大は見られないことがわかった.
|