研究概要 |
超高効率熱電変換デバイス作製のため,本年度も引き続きフォノン(格子振動)による熱伝導を低減するナノ微細構造について調べた.ナノ微細構造におけるフォノン輸送をボルツマン方程式を数値的に解くことにより調べ,熱伝導率低減効果について最適なナノホール配置について提案した.孔の配置は,熱の輸送方向に対して垂直な面を大きくすることが熱伝導率低減に有効であることを得た.これまでのナノ構造の熱伝導率計算の妥当性を検討するため,通常の半導体微細加工技術とイオン集束ビームを用いて100nmのナノホール列を持つSi_3N_4薄膜を作製した.この薄膜の熱伝導率を測定するため,白金-白金ロジウムからなる超微細熱電対をもつ走査型熱顕微鏡(SThM)を用いて表面の熱計測を行った.熱伝導率計測では超微細熱電対は一定温度となるようにフィードバックをかけながら加熱されており,加熱に必要とされた電流をモニターすることで熱伝導率を得ることができる.正確な熱伝導率の校正が難しいため,絶対値としてどれだけ熱伝導率がナノ構造によって低減されたか明言できないものの,ナノホール列がないSi_3N4薄膜と比較して大幅に熱伝導率が低減していることが確認できた. 一方で最終目標である熱電変換デバイスの作製のため,常温で最高効率を示す熱電半導体Bi_2Te_3のp型およびn型薄膜の生成をフラッシュ蒸着法によって作製した.薄膜原料としてP型にはSbをn型にはSeをドープした.蒸着しただけの薄膜の熱電特性はゼーベック係数の絶対値にして40μV/K程度と低いもののアルゴン雰囲気中300℃でアニールした薄膜は,n型で-150μV/K程度の熱起電力,p型で200μV/K程度の熱起電力を示し,バルクと比較しても見劣りしない熱電薄膜にまで特性を改善できた. 本研究を通して超高効率熱電変換デバイスを実現させるための3つの結果を得た.具体的には,室温で最高効率を示す熱電半導体Bi_2Te_3薄膜の生成法を確立,イオン集束ビームを用いることで薄膜にナノホール列を作製できることを示した.ナノ構造を有する薄膜の熱伝導率は,構造のない薄膜と比較して小さいことをフォノン輸送理論に基づいた数値解析で予測すると共に,低減された熱伝導率を計測した.
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