研究概要 |
【目的】本研究では,FESによって特定の筋を機能させたとき,手先位置の3次元空間において,どの方向にどれだけの力を発生できるかを計算できるシミュレーションモデルを構築する.今年度はその応用例として,脊椎損傷者が車いすを駆動する時の手先の運動特性を解析する. 【方法】健常青年男性のCTより得られたDICOMデータをもとに,3次元上肢筋骨格モデルを作成した.そして,筋の力学モデルに上肢剛体リンクの運動シミュレーションを適用し,FES刺激時の動的荷重下における上肢運動を解析した.また,ロボット・マニピュレータの機構解析に用いられる動的操作力楕円体という概念を用いて,車いす操作時の手先位置の運動特性を評価した.個々人の保有する筋力特性を各関節に発揮可能な非対称な最大関節トルクとして捉え,その実測値に基づく動的可操作性楕円体の概念を提案した.この楕円体は,手先位置から楕円体表面までの距離が長い方向ほど手先力の発揮しやすいことを示すため,個々人の残存機能に応じた上肢運動特性を定量的に評価することができる.また,本モデルの妥当性を評価するため,脊椎損傷者の車いす操作を計測してモデル解析の結果と比較した.被験者は脊髄損傷者7名(年齢36〜70歳・損傷レベルTH6〜L2)である.なお,本実験は被験者に対する十分なインフォームド・コンセントの後に行った. 【結果】本研究により,FESによって特定の筋を機能させることにより,手先に発生できる力の方向が変化することが確認された.また,脊髄損傷者の車いす駆動に関する実験では,使用者は平地走行では駆動後期に,スロープ昇降時には駆動期全般に渡ってハンドリム回転方向に最大力を発揮できる姿勢をとっていることが確認された.これらはモデル解析の結果と一致した.
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