研究概要 |
Coベースフルホイスラー合金(Co_2XY: X=Ti, V, Cr, Mn, Fe, Y=Al, Ga, Si, Ge)の多くは高いスピン偏極率を有し、かつ強磁性転移温度が室温よりも高いため、トンネル磁気抵抗(TMR)素子の強磁性電極材料として有力である。しかし、 CoとX原子が入れ替わる原子配列の乱れが生じると、スピン偏極率は大きく劣化する。そこで、 Co_2XYのCoとX原子の置換に対する安定性を、第一原理計算によって解析した。その結果、 Co-X置換に対する安定性はX原子のd電子の数が少ないほど増加することがわかった。これは、 X原子のd電子数が少ないほどその電子分布より得られる有効ポテンシャルもCo(d電子数8〜9個)のそれとは異なってくるため、 Coとの入れ替えに対するエネルギー損も大きくなるからである。したがって、X原子としてTiを選べば、 Coとの置換がもっとも起こりにくいといえる。 高スピン偏極率を有するCoベースフルホイスラー合金のTMR素子における有用性を検討するため、 Co_2CrAlとCo_2MnSiを強磁性電極材料として用いたときの電気伝導を第一原理計算により解析した。バリア層としては最近、室温で300%を超える巨大磁気抵抗が得られて注目を集めている単結晶MgOを用いた。まず(001)界面の構造は、 Co_2CrAlとCo_2MnSiともにCo終端でかつCoが0のトップの位置にくる構造が最も安定であることがあかった。また、多数スピン状態のフェルミ準位での電気伝導を計算すると、 Co_2CrAlよりもCo_2MnSiの方が界面抵抗は小さくなることがわかった。Co_2MnSiでは分散の大きなsバンドがフェルミ準位を横切るため、 MgO内での入射電子の波動関数の減衰は小さく透過率も高くなる。一方、 Co_2CrAlでは局在したdバンドがフェルミ準位付近にあるためMgO内で入射電子の波動関数は急激に減衰して透過率が小さくなるためである。
|