研究概要 |
多関節マニピュレータにおいて一部のアクチュエータが故障したとしても,その故障マニピュレータに簡易な作業を続行させることができればマニピュレータの耐故障性が向上することと同じ効果が得られる。この観点から,本研究の目的は,劣駆動マニピュレータの非線形動特性を有効利用してアームの軌道制御法を構築することにある。 そこで,劣駆動マニピュレータの一例として倒立振子を採用し,以下の項目について研究した。 (1)制御器設計における計算量削減の検討 振子の軌道は,振子の力学系に内在する無限個の不安定周期運動を利用して設計できる。ある不安定周期運動を1個の離散制御器で安定化する制御系を前年度に提案したが,その制御器の有効範囲(不安定周期運動の安定化可能領域)は非常に狭いことを示した。次いで,この問題を解決するためにn個の離散制御器を1/n周期ごとに切り替える合成制御系を提案し,安定化可能領域が拡大することを示した。しかしn個の離散制御器を全て設計するには多大な計算量が必要となり,この制御系をそのまま実機に実装することは実用的ではない。そこで本年度は,倒立振子の力学系に内在する対称性を離散制御器設計に有効利用することで,制御器設計にかかる計算量削減を図った。その結果,制御対象の不安定周期運動がある対称性を有し,かつ,制御器の数(n)が偶数の場合のみに限り,制御器設計にかかる計算量が半減できることを理論的に示した。 (2)合成制御系における可制御性の検討 上述の合成制御系において,制御対象の不安定周期運動が常に可制御となるかどうかについて検討した。この合成制御系は周期係数線形離散時関系となり,たとえn個の区分制御系が全て安定となるように個々の離散制御器が設計されたとしても,全体としての合成制御系が常に安定になるとは限らないことを示した。
|