研究概要 |
本研究は,合成短繊維を少量添加することでコンクリートの収縮ひび割れを低減・防止することの実用化を目指すものである。研究は二つの柱からなり,(1)すでに剥落対策を目的として少量の短繊維を使用しているJR東日本の構造物を中心に,実構造物での繊維のひび割れ抑制効果を調査すること,(2)繊維がコンクリートの収縮ひび割れを抑制するメカニズムを解明すること,を並行して進めた。 実構造物の調査からは,コンクリートの収縮変形に対する外部拘束の程度により,繊維の収縮ひび割れ抑制効果が出る場合と,ほとんど出ない場合があることが分かった。具体的には,トンネルの二次覆工コンクリートで背面の一次覆工コンクリートとの縁が防水シートで切れているような場合は,二次覆工コンクリートの天井部の収縮ひび割れが繊維の存在によりかなり抑制されていた。一方で,高架橋の中間スラブのように四辺を梁で拘束されるような場合には,繊維のひび割れ抑制効果はほとんど見られなかった。 収縮ひび割れの抑制メカニズムについては,繊維がプラスチック収縮ひび割れを抑制する機構を解明した。繊維は親水性がある場合,ペースト中の水分を捕捉しており,この効果だけでも,ペーストのプラスチック収縮ひび割れをかなり抑制する。プラスチック収縮ひび割れのひび割れ幅の抑制には,繊維の架橋効果も寄与している。架橋効果は従来から指摘されていたが,水分を捕捉する効果については,国内外で初めて発見した機構である。 また,一部の繊維を適量用いることで,中長期的なコンクリートの収縮ひび割れも抑制することが明らかとなったが,その機構解明は今後の課題として残った。
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