研究概要 |
本研究では,劣化速度が大きなマクロセル腐食を対象として,鉄筋コンクリー卜部材中の鉄筋の電気化学的特性を明らかにした上で,部材の劣化シミュレーションを行なうことを目的とした. まずテストケースとして,外環境に電気化学的特性が影響を受けにくいステンレス筋を用いた検討を行なった.その結果,(1)かぶりコンクリート中の塩化物イオン量が,ステンレス鋼の自然電位に与える影響は,炭素鋼の場合と比較して極めて小さい.(2)既存部における塩化物イオン量と鋼材の電位および分極量との関係に対しては,補修部の鋼材種類は大きな影響を与えない.(3)電位が正の領域で,ステンレス鋼のアノード分極曲線の形状は炭素鋼のものとは大きく異なるが,その差はコンクリート中では考慮しなくても良いと考えられる.(4)塩害の断面補修に対してステンレス鋼を使用することにより,再劣化が加速されることはないと考えてよく,通常の炭素鋼を用いる場合と同様に取扱ってよい.という点が明らかとなった. その後,かぶりコンクリートの性状,塩化物イオン濃度,アノードーカソード間の距離,アノードとカソードの面積比が,マクロセル腐食に与える影響について実験的検討を行なった.その結果,(1)アノードカソード間の距離が大きいほどカソードの分極量は小さくなり,マクロセル電流量は小さくなる.(2)水セメント比が大きいほどカソードの分極量は大きく,マクロセル電流量は大きい.(3)塩分濃度が大きくなるとアノードのみならずカソードの電位も分極により低下し,マクロセル電流量は大きくなる.(4)アノードとカソードの面積比が2以上ではマクロセル電流量はほぼ同じ程度となった.ということが明らかになった. 当初目標とした劣化シミュレーションを行なう段階にまでは到達できなかったが,実験データを蓄積することができたため,これをモデル化,数式化することにより,劣化シミュレーションモデルの構築は容易である.
|