研究概要 |
東京湾に代表される都市沿岸域は都市からの様々な負荷を受けており、水質悪化が深刻である。過去に流入した栄養物質が長年にわたって海底に堆積しており、これら堆積物から多くの栄養塩が溶出することや、雨天時にイベント的に発生する未処理の下水道越流水の流入が、水質環境の改善を阻害する主な原因となっている。 本研究では水質モニタリングの質を向上させ、水質環境の履歴を測定することが可能な効率的な観測手法を開発すると同時に、堆積物の形成過程や堆積物からの栄養塩溶出量を明らかにすることを目的としている。 本年度は富栄養化の特に著しい東京湾と,近年水質悪化が顕在化しつつある有明海において、微生物の群集構造解析と溶出実験・脱窒速度の観測を行った。東京湾および有明海において、底泥の採取を行い、これらをキノンプロファイル法によって分析することで微生物群集構造を定量し、栄養塩溶出量や脱窒量の計測を実施した。これらを水温や塩分、溶存酸素、有機物量,流速等の水環境諸量と比較することにより、微生物構造と水質指標との関係を検討した。 微生物群集構造は、下層の貧酸素化や台風等の時化の影響を強く受け変化した。この微生物群集の変化については,粒径の変化との相関が高かった。またキノンプロファイルによって分析した微生物量と,脱窒の間には正の相関が認められた。 以上により、特性の異なる2海域で微生物群集構造の解析手法やそれらと水質項目との関係を把握するための検討を行いその方法論を確立した。脱窒量については,内湾の水質や物質循環を検討する上で重要な項目であるにもかかわらず,測定の難しさから観測例が少なかったが,キノンとの相関で推定できるようになれば,より簡便な計測できるようになると考えられる。
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