研究概要 |
雨天時および晴天時の水熱輸送過程の定量的な実態を解明し,年間の水熱収支を明らかにすることを目的として,東京都大田区の低層住宅地域において水蒸気の鉛直分布を計測した.水蒸気の鉛直分布を精度よく計測するため,高分解能CO_2/H_2O多点ガスマルチスキャンシステムを構築した.具体的には,分析計を地上部に設置し,多点切り替えフローシステムにより上空11高度の濃度計測を行った. H17年度には,冬季および夏季におけるスカラー濃度の鉛直分布および乱流拡散係数について研究を行った.(1)冬季は地表のCO_2高濃度化が顕著であるが,夏季の日中にはキャノピー内で下方ほどCO_2が低い.都市域は人為起源のCO_2により濃度は下方ほど高いが,夏季の日中は庭木や植え込みの光合成によってキャノピー内ではCO_2濃度が低下する.(2)夏季・冬季に関わらず,H_2Oは地表付近で濃度勾配が大きくなる.オアシス効果により庭木や植え込みからの蒸発が促進されること,境界層上空からの乾燥空気の影響を受けていることが,その理由として挙げられる.(3)熱,CO_2,H_2Oの無次元拡散係数を調べたところ,不安定時に大きく安定時に小さくなる共通の傾向が認められた.しかし無次元拡散係数には高度依存性が見られ,キャノピー近傍では大きくなる傾向があった.またスカラーによってその大きさが異なり,特に水蒸気の拡散係数が小さくなる傾向が見られた.このことは既存の相似則理論を都市接地境界層に適用して潜熱フラックスを見積もることの危険性を示唆している.水蒸気が小さくなった可能性として,境界層上空の空気が地表付近に輸送され結果として水蒸気の鉛直勾配が大きくなることが考えられる.従来の理論では地表付近の接地層内の乱流輸送のみを前提としており上部からの影響は考えられていない.今後,大気境界層との相互作用を考慮したスカラー輸送の相似則を検討する必要がある.
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