研究概要 |
徳島大学南常三島キャンパス(徳島県徳島市)のクス(常緑広葉樹),香川県千足ダム(香川県東かがわ市)流域内のコナラ(落葉広葉樹)とヒノキ(針葉樹)を対象にした,一降雨イベント毎の林外雨水質と樹冠通過雨水質の測定を行った.これと徳島地方気象台や千足ダム管理所で観測されている気象データから得られる晴天日数,一雨降雨量,降雨時間,先行累積降雨量を用いて,一雨毎の樹冠通過雨濃度の推定モデルを構築した.観測結果と推定式の検討を行い,樹幹通過雨水質の形成機構では,(1)樹冠における溶質の洗脱・溶脱に最も影響を与える一雨降水量が最も大きな影響因子である,(2)葉面の表面積が大きく大気中の塵・ミストなどを吸着しやすい針葉樹の方が広葉樹より溶質濃度が高くなる,といった事を確認でき,構築した推定モデルによって,針葉樹から広葉樹への植生の転換といった場合の森林の水質保全機能の変化をシミュレーションすることが可能になった. 次に徳島県白川谷森林試験流域(スギ林)における,降雨と渓流水質の観測結果を用いて,森林の水質保全機能における森林樹冠・樹幹部の役割についてモデルを用いた定量評価を行った.その結果,(1)大気中の硫黄酸化物が有力な起源である硫化物イオンは,樹冠・樹幹で濃度が2〜3倍になり,渓流水に含まれる43%が樹冠・樹幹での洗脱・溶脱に起因すること,(2)大気中の窒素酸化物が有力な起源である硝酸態窒素は,硫化物イオンと異なり樹冠・樹幹で濃度がほとんど変化せず,樹冠・樹幹起源の負荷量は渓流水に含まれる負荷量の7%程度しかないと思われること,(3)葉の気孔の開閉機構に関与するカリウムイオンは,樹冠・樹幹で濃度が4〜5倍になるものの,土壌中でほとんど植物体に再吸収されるため,渓流水に含まれる負荷量はごく僅かであること,などが分かった.
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