研究概要 |
交通混雑や違法駐輪・駐車などの交通問題は典型的な社会的ジレンマ問題であり,これらの問題の解決を意図して,構造的方略の導入が検討されることが多い.また,構造的方略の導入を巡る公共受容ジレンマは,通常の社会的ジレンマよりも複雑な様相を帯びると考えられている.昨今よく話題に挙げられる道路の混雑課金(ロード・プライシング)導入の議論でも,賛否意思を個人が表明する状況で生じる公共受容ジレンマはその典型例である.さらに,公共受容ジレンマの状況においては,人々の意思決定を規定する要因として,同調圧力が極めて支配的な役割を果たすことが知られている. このような問題に対し,本研究では,公共交通利用や自動車利用自粛等の交通行動を対象として,環境配慮的な交通行動規範が社会で成立する可能性についての実証的・計量的な分析を行った. 具体的には,周辺の他者がある行動をとる割合を説明変数として組み込んだ効用関数をランダム効用理論の枠組みのもとで定式化し,東京都心部でのロード・プライシング導入(課金区域の設定)に対する市民の賛否意識を把握するためのインターネットアンケート調査を行って,モデルを同定するためのデータを収集した.そして,得られたデータを用いて,他者の賛同傾向が個人の賛否意識(投票行動)に及ぼす影響を考慮したミクロ計量モデルを同定し,ロード・プライシングの導入に対する合意形成が円滑に進むために必要な,政策の導入時点において少なくとも達成しておくべき賛同率を推計した.すなわち,このような分析方法を確立させることにより,「目標値(限界質量)と現時点での政策賛同率との差を埋めるような政策を検討しさえすれば良い」等といった,公共政策に対するマーケティング的な検討を行うための基礎資料になることが示唆されたと思われる.
|