研究概要 |
鉄筋コンクリート造建物の梁の端部にひび割れが生じると、梁が軸方向に伸張することが知られている。基礎梁は曲げ降伏しないよう設計されるので、一階注脚は移動せず,上階のみ梁が伸張する。その結果一階の柱に付加的にせん断力が働くとともに,柱の拘束によって梁に軸方向力が生じる。結果として,見かけ上の梁の曲げ強度が上昇し,梁降伏型を想定して設計された建物でも,層降伏型に移行する可能性が考えられる。梁の伸張に伴う柱のせん断力増分と,梁の強度の上昇を見積もる手法を開発する必要がある。 本研究では,梁の軸方向力を考慮した設計法のために,梁の軸方向変形量を予測する手法を提案した。梁部材の中立軸が梁の上端および下端に移動するとした既往の簡便な予測手法では,梁の伸張を過大評価する傾向がある。梁に生じる軸方向力によるコンクリートの圧縮ひずみを考慮した修正は,式の形が煩雑で使いにくく,精度もあまり良くない。本研究では梁の中立軸位置に着目して,梁の軸方向変形を推定する方法について検討した。数値解析で得られた中立軸位置を用いて軸方向変形を算定すると非常に精度が良いが,設計時に中立軸位置の変動を予測するのは困難である。そこで本研究では,数値解析を行って中立軸位置の移動を観察し,梁の主筋が降伏した後圧縮鉄筋位置付近に移動することを明らかにして,中立軸位置を圧縮鉄筋位置に仮定することによって,梁の軸方向変形を精度良く見積もることが可能であることを示した。 本研究の手法は非常に簡便であるが,実用上十分に精度良く,梁の軸方向変形量を予測することができる。この手法を用いて,梁の軸方向力及び柱の付加せん断力を計算し,層降伏型崩壊への以降を防ぐために必要な柱梁耐力比を算定することができる。
|