研究概要 |
1.実建物の長期連続振動モニタリング (財)電力中央研究所・南研究棟を対象として実施した長期連続振動モニタリングで取得した固有振動数の経時変化(2003年12月〜2006年1月)の分析を行った。その結果,夏季には建物の外表面温度の上昇とともに固有振動数が高くなること,冬季には室内暖房に依存した耐震壁表面温度の上昇に伴って固有振動数が高くなることを確認した。これらの観測結果は,温度応力によって固有振動数に日変動が現れる仮説を支持するものである。 2.鉄筋コンクリート柱の模型試験 固有振動数の日変動の発生メカニズムを解明するため,無筋および鉄筋コンクリート柱の模型振動試験を実施した。試験では,試験柱(サイズ10×10×56cm)の一面のみに温度変動を与えた状態で自由振動試験を一定時間間隔で実施して、試験柱の温度分布と固有振動数を測定した。この試験を試験柱が無損傷である場合(健全時)と最大耐力まで載荷して損傷させた場合(損傷時)で実施した。 健全時の試験結果によれば,無筋コンクリート柱については,側面温度の上昇とともに固有振動数が高くなり,側面温度の低下とともに固有振動数が低くなる傾向が明瞭に確認された。鉄筋コンクリート柱でも,固有振動数の変動幅は小さいものの,固有周期と温度の関係について同様の傾向が認められた。これらの結果は,項目Aで観察された構造部材温度と固有振動数の関係と整合しており,温度応力によって固有振動数に日変動が現れる仮説を支持するものである。 一方で,損傷時の試験結果によれば,鉄筋コンクリート柱において側面温度の上昇とともに固有振動数が低くなる傾向が観察された。この損傷時の固有振動数の経時変動は健全時とは正反対の挙動を示すものであり、この性質を原理とする新しい構造診断法が成立する可能性を見出すことができた。
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