研究概要 |
連続鋳造用モールドフラックスの結晶化の制御において,各種イオンの配位状態が晶出する結晶種に大きな影響を与える。そしてこの配位状態はスラグの構成成分の活量に大きく依存することがこれまでの研究で明らかにされた。また急冷ガラスにおいてFはCaに配位し,小さなクラスタを形成していることも確認されており,F周辺の局所構造はcuspidineやCaF_2の結晶構造に近い配位構造をとっていることがわかっている。しかしながら,この急冷ガラスの局所構造は溶融スラグの構造を反映しているとは限らない。そこで,モールドフラックスの基本的な系であるCaO-SiO_2-CaF_2系において,2(CaF_2)+(SiO_2)=2(CaO)+SiF_4(g)の平衡によるSiF_4蒸気圧を気体流通法により測定し,各種成分の活量を決定した。また活量の観点から溶融スラグの局所構造とCaF_2の役割について考察した。 モールドフラックスに用いられる塩基度1周辺の組成域については,CaF_2結晶を標準状態とした場合のCaF_2の活量は非常に高く,cuspidine周辺においても1に近い値を示した。このことはスラグ中のCaF_2の化学ポテンシャルが標準状態に近い,すなわちCaF_2結晶に近い局所構造を持っていることを示唆しており,これまでの急冷ガラスの分光分析から得られた知見を支持するものである。またSiO_2の活量はCaF_2の添加に対して希釈によるモル分率の減少分しか変化しておらず,CaF_2の影響を受けないことが明らかになった。このことはCaF_2がSiO_2のネットワークの重合度に影響を与えないことを意味しており,CaF_2はスラグ中において希釈剤として作用しているということが活量測定の観点からも明らかになった。 以上より,モールドフラックスにおけるcuspidineの結晶化は各種成分の活量に依存するが,CaF_2の活量はシリケート中における他の成分に比較して相互作用が小さい。そのためCa_4Fを基本としたクラスタによる配位構造を維持しており,cuspidineの結晶化を起こしやすいことが明らかになった。よってcuspidineの結晶化を促進するには物質移動を促進する成分を添加することで,より結晶化しやすい高速鋳造用モールドフラックスの設計が可能になる。
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