研究概要 |
金属ナノ粒子の融点は,そのバルクよりも低くなることが知られている。しかしながら,その融点や面方位依存性を測定した例は,きわめて少ない。本研究では,分子動力学法により金属ナノ粒子の融解をシミュレートし,融点を決定する要因を検討した。 本年度は,表面が(111),(100)および(110)からなる銅ナノ粒子の融解のシミュレーションを行った。粒子数は,6986個とした。アンサンブルとしてNTV,温度制御にはNose法を用いた。また,原子間ポテンシャルにはタトとバインディングモデルを使用した。エンタルピーが不連続に変化する温度から,融点を決定した。 粒子の融点は,約1125Kに存在した。これは,昨年度調査を行った表面が(111)と(100)からなる銅ナノ粒子の融点の計算結果から予想される銅原子6986個からなる銅ナノ粒子の融点よりも低い。すなわち,表面に(110)が存在することにより,融点が低下するといえる。これは,(110)は最も表面融解を起こしやすい面方位であるためと考えられる。 さらに,固体状態の粒子について,原子の動きの面方位依存性を見るために各表面に垂直な方向に対する原子の平均二乗変位を解析した。分子動力学計算中にナノ粒子は回転するため,平均二乗変位の解析においては,あらかじめ粒子の回転を取り除いて原子座標の補正を行った。その結果,表面の原子の平均二乗変位は,粒子内部のものよりも大きく,また,(110)に垂直な原子の平均二乗変位は,(111)よりも大きいことがわかった。 以上より,ナノ粒子の融点は,原子数および表面の面方位によって決定されることが明らかになった。融点直下において,表面の原子の平均二乗変位は(111)のものよりも大きく,これが融点の低下に寄与する。したがって,鉄やその合金の融解も,粒径を小さくすること,さらにオーステナイトにおいて,(110)を表面に出すことによって,より低温化をはかることができるといえる。
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