研究概要 |
自然界に存在する微生物の多くは,バイオフィルムと呼ばれる不均一な集合体として存在しているが,近年,バイオフィルム中における細胞間の遺伝子水平伝播により,薬剤耐性因子などの拡散が生じる危険性が指摘されている.本研究では,バイオフィルム構造を模したモデル実験系において,浮遊状態の細胞と比較することにより,大腸菌の自然形質転換におよぼす細胞生育環境の影響に関する基礎的な検討を行った. モデルバイオフィルム実験系として,大腸菌IM302株及びProvidencia sp. WW2株をLB寒天培地上のナイロンフィルター面で培養した後,フィルターをCaイオンおよび培地成分を含む寒天培地に重層し,4℃および25℃で24時間保持した.ナイロンフィルター面上のIM302株を回収し,プラスミドDNAを加え,5℃で30分保持した後,コロニーカウンティング法により形質転換細胞数を求めた.浮遊系では,IM302株をCa^<2+>および培地成分を含む溶液で,4℃および25℃で24時間保持し,モデルバイオフィルム実験系と同様に形質転換細胞数を求めた. 浮遊系では,25℃におけるLB培地を含む条件では,形質転換細胞はほとんど認められなかった.これは,25℃では細胞の増殖のため,細胞表層が再生され,CaイオンによるDNA受容能の誘導が無効となるためと考えられる.一方,モデルバイオフィルムにおいては,このような差異は見られなかった.モデルバイオフィルムではWW2株が障壁の役目を果たし,内側にあるIM302株への栄養供給を阻んだために増殖が抑制され,DNA受容能が維持されて形質転換が生ずるものと考えられた.したがって,バイオフィルム内では,細胞は環境因子の影響を受けにくく,一度獲得された形質転換能が維持され,その結果,遺伝子水平伝播が起こりやすいものと推察された.
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