研究概要 |
森林群落からのCO_2フラックスやH_2Oフラックスの評価には,樹冠構造と乾燥度,樹幹から葉への水分供給と,それに対応した気孔による調節機構の解明が重要である。本年度はいくつかの角度から気孔開度と蒸散の関係を解析し重要な結果を得た。日本産樹種21種の気孔形態と気孔コンダクタンスの関係について検討し,その結果,気孔長と気孔密度の間には負の相関関係があること,常緑広葉樹の気孔は落葉広葉樹に比べ孔長が揃っているが,開孔幅は逆にばらつきが大きい傾向があった。また,気孔形態の日変化については,孔長さは1日を通じてほぼ一定であるが,開孔幅は光合成・蒸散に対応して日変化を示した。各時刻における気孔開孔幅の分散解析から,気孔は基本的に光合成・蒸散に対応して開閉するが,気孔開度は正規分布するある一定の分散を持ちながら変動していた。気孔形態データから個葉の気孔コンダクタンスが推定可能であった。さらに,葉の全ての気孔が全開になった値(理論的には葉の物理的な気孔コンダクタンスの上限)を計算し,葉の細胞生理学的なガス交換能力に対する気孔開度の余裕度を検討した。 年間を通じて,同じ樹冠において測定を行なった結果,ある瞬間における樹冠内の葉の気孔の開度のばらつきは非常に大きいが,1日平均ではその差は非常に小さくなり,さらに年間平均に直すとその差は数%以内に収まった。この理由は,年間を通じては,葉の向きによる日射入力の差は小さく,さらに,南向きの直達日射が長時間当たる葉位の葉では,強光阻害が生じるため気孔が閉じ気味になるのに対して,北向きの葉位の葉では,光利用効率が高くなるため,年間を通じてはその生産性に大きな差が生じないためであることが示唆された。 富山県・立山高山帯の2つのハイマツ群落において,個葉レベルの測定から群落蒸散量を推計した。その結果,夏期の晴天日にはハイマツ群落は5〜10mm/day程度という非常に大量の蒸散を行っていた。またハイマツの気孔は茎からの水供給の変化に対して非常に敏感に反応していたが,大気乾燥度に対してはほとんど反応していないかった。樹冠構造と林分の立地の関係からGISを用いて林内の光分布を推定するための簡易式を考案し,下層植生との対応関係を比較した。
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