研究概要 |
シアノバクテリアの光応答遺伝子の発現制御機構を明らかにするため、自身の発現量が光に応答して変動する転写因子として暗明移行により発現量が増加するsll1594 (ndhR), sll1205, sll1742 (nusG), slr0115 (rpaA)、また暗明移行により発現量が減少するsll0789とslr0741 (phoU)を選び出した。次に薬剤耐性遺伝子の挿入により上記遺伝子の破壊を試みたところ3、sll1742 (nusG)とsll0789以外は破壊が可能であったため、以降の解析に進めた。DNAマイクロアレイを用いて暗明移行に伴う遺伝子発現変動の割合を野生株および作製した遺伝子破壊株の間で比較したところ、sll1205とslr0115破壊株は光応答性の遺伝子発現はほぼ正常であった。一方sll1594およびslr0741破壊株では比較的多くの遺伝子発現の光応答性の低下が観察された。 sll1594破壊株では、sll0336 (accD), sll1030 (ccmL), ssl0020 (petF), 6つのリボソームタンパク質遺伝子を含む18遺伝子の発現の光による誘導の割合が低下しており、一方slr0223 (trxM), slr1641 (clpB), sll0452, sll0453 (共にnblA)を含む計33遺伝子の光による発現の抑制の割合が低下していた。 slr0741破壊株ではsll0018 (cbbA), sll1099 (tufA), sll1316 (petC), sll1577 (cpcB), sll1818 (rpoA), slr0009-slr0012 (rbc operon), slr0434 (efp), slr0906 (psbB), slr1463 (fus), slr1643 (petH), slr1834 (psaA), ssl0020 (petF), 8つのリボソームタンパク質遺伝子を含む計44遺伝子の発現の光による誘導の割合が低下しており、またsll1514 (hspA), slr0093 (dnaJ)を含む計10遺伝子の発現の光による抑制の割合が低下しており、一方sll1514 (hspA), slr0093 (dnaJ)を含む計10遺伝子の発現の光による抑制の割合が低下していた。 よってsll1594は主に光による遺伝子発現の光による抑制の制御に関わり、slr0741は主に遺伝子発現の光による誘導の抑制に関わることが示唆された。 slr0741破壊株においては、rbcXおよびrpoA遺伝子発現の光応答のタイムコースを定量PCR法により測定したところ、rbcXおよびrpoAのmRNA量が野生株に比較して暗所で増加していることが明らかとなった。これによりSlr0741は光応答遺伝子のmRNAの暗所での分解あるいは安定性に寄与していることが示唆された。
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