研究概要 |
植物の光合成遺伝子の機能発現と発現調節を司る翻訳システムの分子構成を理解するためには、葉緑体ゲノムコード光合成遺伝子の葉緑体翻訳系と、核ゲノムコード光合成遺伝子の細胞質翻訳系の全構成成分の把握が不可欠である。本研究代表者はこれまでに、高等植物(ホウレンソウ)と緑藻(クラミドモナス)をモデルとして葉緑体70Sリボソームのプロテオームを明らかにしてきた。本研究では、バイオインフォマティクスによりクラミドモナス葉緑体翻訳関連遺伝子群(葉緑体特異的翻訳因子、一般的翻訳因子、およびリボソームタンパク質をコードする遺伝子群)を明らかにし、葉緑体翻訳系とバクテリアの翻訳系には従来考えられていた以上に大きな相違があることを示すと共に、葉緑体特異的翻訳因子とリボソームタンパク質が、SD-配列に依存しない葉緑体に固有の翻訳開始反応や光依存的翻訳に関与することを示唆した。さらに、クラミドモナス細胞質80Sリボソームのプロテオーム解析(2D-PAGE/Edman分解,SDS-PAGE/LC-MS/MS, FPLC/PMF等)によりこれまでに少なくとも78個のラット肝80Sリボソームタンパク質オルソログを同定した。また、リボソームタンパク質のアイソフォームの存在や翻訳後修飾を複数見出した。本研究成果の一部は、既に雑誌論文(Manuell et al., JMB 2005)に公開されている。最近、アラビドプシス80Sリボソームのプロテオーム解析が海外の2つの研究グループから報告されたが、本研究代表者らによる解析は同定数、精度においてこれらに優り、より有用な分子基盤情報を与える。以上、本研究では、植物の光合成遺伝子の機能発現と発現調節を司る翻訳システムの分子構成を高い精度で明らかにすることができた。本研究成果は、葉緑体特異的リボソームタンパク質の機能解析、およびリボソームタンパク質のアイソフォームや翻訳後修飾によるリボソーム不均一性の生理的意義が今後の重要な課題となることを示している。
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