研究概要 |
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は,種子の休眠や乾燥ストレスを司るなど植物の重要な生理機能を担っている.本研究では植物の各生長段階におけるABA内生量の調節機構を調べる目的で,ABAの代謝酵素であるABA 8'位水酸化酵素(CYP707A)遺伝子を欠失させた植物体を作製し,その表現系を観察した.欠失体の作製には,RNA干渉を用いてシロイヌナズナの4つのCYP707A遺伝子を同時にサイレンシングする方法を試みた.また同時に,サイレンシングの結果得られた植物形質を評価するために既存の各CYP707Aミュータントをかけ合わせ,CYP707A遺伝子が複数欠失したラインの作製も行った. 4つのCYP707A遺伝子を全長配列に沿って250塩基ずつつなぎ合わせたコンストラクトをPCR法を用いて作製し,アグロバクテリアの植物形質転換用ベクターへ導入し,これを用いてシロイヌナズナを形質転換した.しかしながら得られた形質転換株は野生株と全く変わらない表現系であり,ABAが蓄積したような表現系は観察されず,目的とするサイレンシングは起こっていなかった. 一方,cyp707a1/cyp707a2の二重突然変異体において,種子に最も大量のABAの蓄積が見られ,著しい発芽阻害が観察された.他の変異体も解析した結果,CYP707A2が欠損することで強い発芽阻害が観察されたことから,CYP707A2が種子発芽時のABAの代謝に最も重要であることが明らかになった.各遺伝子の発現解析を行ったところCYP707A2は発芽時の胚で高い発現が見られたのに対し,CYP707A1は種子の登熟過程で最も高い発現が見られ,この時期のABA量の調節を担っていることが明らかになった.このように各CYP707A遺伝子の役割分担が明らかになりつつあることで,農業上有用な形質を作製できる可能性が示唆された.
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