研究概要 |
複数のABCタンパク質(ABCA1,ABCG1,ABCG5,ABCG8)が、生体内のコレステロール恒常性維持に重要な役割を果たすが、コレステロールを基質として輸送するのか、あるいはリン脂質輸送によって細胞膜環境を変えることで間接的にコレステロール輸送に関与するかなど、その分子機構は明らかではない。ABCタンパク質の輸送基質と輸送機構を解析することで、コレステロール恒常性機構を明らかにすることを目的として実験を行った。動物培養細胞HEK293のABCG1安定発現株を樹立し、ABCG1発現細胞から、コレステロールとコリンリン脂質が排出されること、高密度リポタンパク質(HDL)存在下で排出が増加することを見出した。質量分析と薄層クロマトグラフィー解析から、リン脂質の内、ABCA1発現細胞ではホスファチジルコリンが主に排出されるのに対し、ABCG1発現細胞ではホスファチジルコリンとスフィンゴミエリンが排出されることを明らかにした。ABCA1を昆虫培養細胞で大量発現させ、ニッケルレジンカラムを用いて精製した。精製標品のATP加水分解活性を測定し、ABCA1がATP加水分解活性を持つこと、脂質に再構成するとその活性が上昇することを明らかにした。ABCA1のWalkerAモチーフのリジン変異体では活性が低かったことから、加水分解活性がABCA1特異的なものであることを明らかにした。様々なリン脂質組成のリポソームに再構成して活性を検討した結果、ABCA1がコレステロールとホスファチジルコリンを基質として輸送し、アポリポタンパク質AIに受け渡すことが示唆された。これらのことから、抹消細胞でABCA1とABCG1が協調してコレステロールを排出し、HDL形成に関与する可能性を示した。
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