研究概要 |
我々ヒトを含めた脊椎動物の後脳領域は発生初期段階で前後軸に沿って互いに細胞が混和しない7つの区画rhombomere1〜7(以下r1〜r7)へと分節化される。これら後脳分節構造はその背側から生じて頭部末梢神経節や耳小骨、下顎/咽頭軟骨等を形作る神経冠細胞群の移動様式をも規定するため、頭/顔面/咽頭部形成に少なからぬ影響を与えるが、それら分子発生機序に関しては依然不明な点が多い。本研究代表者はこれまで細胞に選択的接着性を与える分子群カドヘリンのサブクラスCadherin-6(Cdh6)を単離し、その発現がマウス発生初期の後脳分節形成過程で、r5〜7の3区画からr6 1区画へ限局すること、偶数区画(r2/4/6)の背側から移動する神経冠細胞の一部集団にのみ認められることを見出している。さらにCdh6はマウス前脳分節に対応して発現し、その結果生じる区画間の細胞接着性の違いが前脳分節境界維持に関わることを実証している。本研究はマウス後脳分節化過程で領域時期特異的な発現様式を示すCdh6が同様の区画境界維持機能をもつか、(1)後脳全域でのCdh6強制発現、(2)本来偶数区画に限局して発現するCdh6の時空間特異的なエンハンサー(Hoxa2-r3/5 specific enhancer)を用いた奇数区画への異所性発現、(3)カドヘリン機能を後脳全域もしくは一部区画で阻害するドミナントネガティブ型(CdhΔ6)の強制発現、を通して明らかにすることを主目的とする。 平成17年度は、前年度(2),(3)の状態を得るため作出に成功したトランスジェニックマウス系統(r3/5-Cdh6:4系統,r3/5-CdhΔ6:1系統)の解析としてr3/5マーカー遺伝子Krox20の分布変化を免疫組織化学法によって徹底追求したが、E8.0〜E9.5で野生型と大きな差異が認められなかった。これは用いたエンハンサー活性の強度と誘導時機が表現型を見出すには不十分であった可能性が考えられるため、現在(1)による解析でさらなる詳細を実験解析中である。なお(1)で用いる特殊解析技術については世界的に権威ある実験指針書新版に発表した(研究発表欄)。
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