研究概要 |
コメタンパク質は、コメを主食とするアジア地域、特に発展途上国の人々にとって貴重なタンパク源であるにも関わらず、必須アミノ酸であるリジンが不足している。全種子タンパク質の80%を占める主要貯蔵タンパク質グルテリンは、2つのサブファミリー(Aタイプ,Bタイプ)から構成されるが、Bタイプの方がリジン含有率が最大40%程度高く、栄養性が優れている。本研究では、グルテリンのサブファミリーに特異的な抗体およびサブファミリーを代表する遺伝子(A2,B1)のプロモーター領域にGUS遺伝子をつなげてイネに組み込んだ形質転換体を用いて、グルテリンの発現・蓄積過程をサブファミリーごとに解明する計画を立てた。 本年度は、昨年度に構築したサブファミリー特異的な抗グルテリン抗体による免疫反応系を用いて、標準的なイネ品種と貯蔵タンパク質組成に変異をもつ突然変異体から調製したコメ組織切片を処理し、蛍光顕微鏡を用いてグルテリンの細胞内局在を観察した。研究代表者らは既に、Bタイプに比べAタイプのグルテリンは分子間ジスルフィド結合と疎水的相互作用により重合化しやすい性質があることを明らかにした。そのため、Aタイプは小胞体由来のPB-Iに局在するプロラミン(システイン残基を多く含み疎水性が強い)と相互作用しやすいと予想されたが、本研究条件下では、いずれの場合も局在の変化は見出されなかった。 一方、グルテリン遺伝子(A2,B1)のプロモーター領域にGUS遺伝子をつなげてイネに組み込んだ形質転換体を、様々な培地組成のもとで穂培養して分析したところ、A2,B1ともに高窒素濃度の培地で培養したときにGUS活性の増加が観察された。しかしながら、実際のタンパク質蓄積量はBタイプのみ増加した。その発現制御機構の詳細は不明であったが、本研究成果により、登熟期の高窒素処理によるコメタンパク質の栄養性改善の可能性が示唆された。
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