都市環境の悪化が深刻化する中、屋上緑化を始め、様々な手法を用いた都市緑化技術の開発に大きな期待が寄せられている。中でもアトリウム空間の緑化は景観的効果のみならず、ビル内の物理的、化学的、心理的な環境改善効果をもたらすものとして大いに注目されている。しかし、アトリウム内空間は屋外とは明らかに生育環境が異なっており、アトリウム内での植栽および維持管理における早急な一般的な指針づくりが望まれている。本実験では、竣工後30年が経過し、現在も緑を保ちつづけている、国内で初めての本格的アトリウム緑化事例である大同プラザにおいて確立された管理方法を他のアトリウムへ応用するための第一歩として、大同プラザ内の微気象および、植栽植物の生育、生理特性に関するデータの収集・分析を行った。調査項目は、(1)アトリウム内気象の調査(気温、湿度、地温、土壌中水分含量、土壌pH)(2)アトリウム内植栽植物の生理特性(光合成蒸散速度、葉のクロロフィルa/b含量)(3)アトリウム内植栽植物の生育調査(樹高、幹回り、展葉数、着葉数、シュート長、葉身の長さと幅、出芽日、開花日)である。その結果、アトリウム内気象のうち、気温や地温はビル内の空調管理に大いに影響を受けることが明らかとなり、それがアトリウム内植物の出芽や落葉、開花などの生育サイクルに大きく影響を与えていることが示唆された。また、土壌pHは、年月の経過とともにやや低下する傾向が見られ、ピートモスのマルチングによって再び上昇することが明らかとなった。アトリウム内植栽植物の葉のクロロフィル含量は、アトリウム内の植栽エリアや樹種ごとで異なる傾向が認められたが、クロロフィルa/b比はアトリウム外植物よりもアトリウム内植物の方が有意に高くなり、照度との強い相関が示された。
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