研究概要 |
(背景) 白色腐朽菌は木質リグニンを単独で完全に分解する事ができる唯一の生物であり、低エネルギーで低環境負荷な未利用木質資源のバイオマス変換へ利用する事が期待されている。しかしながら、リグニン分解反応の機構、および発現誘導については未解明の点が数多い。本研究は、世界的に広く研究されているモデル白色腐朽菌Phanerochaete chtysosporiumを供試菌として用い、リグニン分解酵素生産開始時におけるトランスクリプトーム解析を行なった。 (方法) 培養2日目、および培養3日目のRP78株培養物をリグニン分解酵素生産開始前、および開始直後とし、菌体からRNAを抽出し、LongSAGE (Long Serial Analysis of Gene Expression)法へ供した。また、cAMP濃度を減少させることでリグニン分解酵素を抑制するとの報告があるアトロピンを添加した条件についても同様の操作を行なった。 (結果) 培養2日目については6,396種12,402個、培養3日目については6,945種13,666個のタグが得られた。酵素発現時に有意(p≦0.01)に4倍以上発現量が増加した遺伝子は38あり、リグニン分解酵素であるリグニンペルオキシダーゼH8、およびマンガンペルオキシダーゼが含まれていた。最も転写物量が増加したのはリシンBレクチンであった。他の主な遺伝子としては、Ca^<2+>シグナリングに関与する可能性があるホスホリパーゼD、カルモジュリンなどの転写物量が増加していた。有意(p≦0.01)に4倍以上発現量が減少した遺伝子は43検出された。それらにはCa^<2+>依存性カチオンチャネルポリシスチン、カルモジュリン依存性フォスファターゼなどが含まれていた。以上の結果をまとめた論文をApplied Microbiology and Biotechnology誌に発表した。アトロピン添加条件については、得られたデータの解析を行なっているところである。
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