研究概要 |
細菌は液体培地中で浮遊細胞として存在し、固体培地上ではコロニーを形成して生育する。また、固液界面においてはバイオフィルムを形成した状態で存在し、これら各々の細胞における遺伝子発現には一部相違があるものと推察される。そこで、本研究では供試菌株としてE.coli K-12(MG1655)を用い、各培養細胞における遺伝子発現プロファイルに関してDNAマイクロアレイ法を用いて網羅的に比較解析を行った。 培養は全てLB培地中にて30℃で24時間、静置にて行った。固体培養には寒天培地を用い、バイオフィルム形成はガラス板上に形成させた。培養後、各細胞から全RNAを抽出し、cDNAを合成した後にIntelliGene E.coli CHIP (TaKaRa社製)へのハイブリダイゼーションを行った。本研究では固体培養細胞(S)と液体培養細胞(L)、液体とバイオフィルム形成細胞(B)、及びBとSの組み合わせでハイブリダイゼーションを行い、2.0以上の発現比を有意とし解析した。 その結果、全ての細胞において、対照の細胞に比較して平均500〜600遺伝子に有意な発現の亢進が確認された。特に、Sでは他の培養細胞に比較してcurli(細胞外繊維状タンパク質構造物)の形成に関するcsg遺伝子群の発現が亢進していた。curliとは細胞に高い集合性を与える繊維であり、Sにおいて高く発現していることを明らかにした報告はかつて無い。一方、Bにおいては鞭毛や走化性に関する遺伝子群(fli,flg,flh,che,mot)が他の培養細胞に比較して発現が亢進していた。しかしながら、鞭毛関連遺伝子群の全ての発現が一律に亢進したわけではなく、通常の発現レベルであったフック及び鞭毛繊維の結合部位に関する遺伝子等に比較して鞭毛基部体およびフック形成に関する遺伝子群が亢進していた。このことから、Bにおいては、鞭毛基部装置は本来の役割とは別の機能を果たしていることが推測された。
|