研究概要 |
キノコのβ-グルカンには免役賦活作用を示すものが報告されており、冬虫夏草の滋養強壮作用もβ-グルカンによるものであると考えられている。我々は冬虫夏草(サナギタケ)のβ-1,3-グルカン合成酵素について研究を行い、触媒サブユニット遺伝子(FKS1)と調節サブユニット遺伝子(RHO1)のクローニングに成功した。サナギタケβ-1,3-グルカン合成酵素の触媒サブユニットは1981アミノ酸から成る16回膜貫通型の膜内在性タンパク質であると推定され、調節サブユニットは194アミノ酸から成るRhoタンパク質であると推定された。両サブユニットとも他のβ-1,3-グルカン合成酵素と高い相同性を示した。 触媒サブユニットの中央部には、触媒ドメイン(578アミノ酸)が存在している。この触媒ドメインを組換えタンパク質として発現させ、その詳細な結合特性を調べたところ、正確な基質結合糖衣性を示した。本研究は冬虫夏草など薬理効果を期待されるキノコのβ-グルカンの機能を科学的に解明しようとするものであり、サナギタケβ-1,3-グルカン合成酵素遺伝子のクローニングおよび組換え触媒ドメインの合成に成功したことは、組換え合成酵素を用いて安全性の高い純粋な抗腫瘍性β-グルカンを大量に合成する方法の開発につながる。人口合成した抗腫瘍性β-グルカンは抗癌剤の補助剤や免役賦活剤あるいは免疫力を高める機能性食品・健康食品・健康飲料・サプリメントとして利用できる。 また、組換えヒト免疫細胞β-グルカン受容体(組換えヒトDectin-1)の作製にも成功し、in vitroの機能解析を行った。その結果、ある特定の構造を有するβ-グルカンだけに特異的に結合する特性を示したことから、この組換えタンパク質を利用してβ-グルカンによる免疫賦活作用のメカニズムを詳細に解明することが可能であると考えられた。
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