研究概要 |
昨年度までの研究で,イネのフラボノイド系ファイトアレキシンであるサクラネチンの生合成酵素ナリンゲニン7-O-メチルトランスフェラーゼ(NOMT)をコードする遺伝子の候補として,エリシター処理によって顕著に誘導されるO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子AK069960を見いだした.しかし,大腸菌を用いたAK069960のGST融合タンパク質の発現を行ったが,可溶性タンパク質がほとんど得られなかった.今年度は,マルトース結合タンパク質融合タンパク質を大腸菌を用いて発現させ,可溶性タンパク質を得ることに成功した.しかし,この融合タンパク質は全くNOMT活性を示さなかった.AK069960が実はNOMTではない他のメチルトランスフェラーゼをコードしている可能性も考えられるが,各種エリシター処理によるmRNAの誘導性はNOMT活性の誘導性と非常に良く一致しており,現時点ではまだ本遺伝子がNOMT遺伝子の最有力候補である.今後は,他の発現系を用いたAK069960のタンパク質発現を試みる予定である. 昨年度の研究でサクラネチン(4',5-dihydroxy-7-methoxyflavanone)の代謝産物として,ゲンクワニン(4',5-dihydroxy-7-methoxyflavone)を同定した.本年度は重水素標識サクラネチン([methyl-d_3]サクラネチン)を合成し,これを用いたトレーサー実験を行った.重水素標識サクラネチンをイネ葉片に与えてインキュベートすると,24時間後には与えた重水素標識サクラネチンの80%が消失し,2%が重水素標識ゲンクワニンに変換されていた.このことから,サクラネチンの一部はイネ体内でゲンクワニンに代謝されることが確認できた.しかし,その変換効率の低さから,他の代謝経路の存在の可能性も示唆される.
|