研究概要 |
北海道浦幌地域に生息するヒグマ集団は,農作物食害を増加させており,有害駆除数も増加している.ヒグマは繁殖率が低く強い駆除圧が続けば地域集団はすぐに絶滅すると思われるが,現実には被害は毎年発生し,生息数も維持されているように見える.見かけ上生息数が保たれているのは,オスの移入数が増加しているためであると予想される.この仮説を検証するために,駆除個体の試料および野外で収集した体毛試料を用い,マイクロサテライト多型解析による個体識別,個体数推定,個体群動態,mtDNA多型解析によるオスの移入実態を検討した。 2000年に回収した100試料について必要な遺伝子型を得ることができ,浦幌町で16頭(♂12,♀4)を識別した.この値と,浦幌町における1967年以降の駆除による死亡数,他地域における繁殖指標をもとにした動態解析から,浦幌町のメスヒグマの生息数は減少傾向にあり,出生数を駆除による死亡数が上回っていることが示された。 51頭分のmtDNA多型解析から,浦幌町で駆除されたオスの過半数は浦幌町の北東方向に分布するメスが持つハプロタイプを持ち,北東部からの移入が高い割合で生じていることが示された.またマイクロサテライト多型解析により,森林が連続的に分布している浦幌地域のなかに,南西部の浦幌町周辺と,その北東部との2つの遺伝的に分化した集団が認められた。こうした分化が生じた背景には,オスの移動が集団間で不均等に生じており,高い駆除圧を受ける浦幌町に多くのオスが移動してくる結果生じているものと考えられた。 これらの結果から,強度の駆除圧を受けるヒグマ集団は,駆除により定着的なメスを減少させるが周辺地域からのオスの移入により見かけ上の生息数が保たれるため農作物食害が継続し,さらに駆除が継続されることが示唆された。
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