研究概要 |
南アルプス仙丈ヶ岳および北アルプス乗鞍岳における異なる標高域に生育する,オオシラビソ,シラビソ,コメツガ,トウヒ,ダケカンバを対象とし,計8地点より,成長錐コア試料を採取し,生育地を代表する年輪幅および年輪内年輪内最大密度の時系列(クロノロジー)を構築した。各クロノロジーと過去約100年間の月降水量および月平均気温との関係を単相関分析より解析したところ,同一生育地においても樹種によって気候要素に対する反応が異なること,同一樹種においても,生育標高によって特に夏期の気温に対する反応が異なることなどを明らかにした。 今後の成長を予測する為,年輪幅や密度の変動を気候要素によって説明する重回帰式「年輪ー気候要素モデル式」を作成し,有効性を統計的に検証したところ,ダケカンバ年輪幅(生育上限)とコメツガ年輪内最大密度(中間域)におけるモデル式が成立した。100年後に予測される夏期の気温と降水(気温2℃上昇,降水量20%増加)をモデル式に代入したところ,ダケカンバ年輪幅はわずかに減少し,コメツガ年輪内最大密度は現在と大きくは変わらないと推定された。 これは,気温上昇による促進効果と降水量の増加(日照の減少)による抑制効果が働き,結果的に現在予測されている程度の気候変化では亜高山帯樹木の肥大成長量に大きな変化が生じない可能性を示す。
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