研究概要 |
平成18年度は飼育していた雌が産卵せず,予定していた種苗の確保が困難であったため計画を一部変更した. アミメノコギリガザミの種苗生産では天然で交尾済みの成熟雌を採集し,飼育下で産卵・ふ化させ,幼生を稚ガニまで育成する.このため種苗の父親,すなわち交尾相手となる雄の数については不明である.平成16年度に1個体の雌とその子供について検討したが,今年度は親ガニのサンプル数およびマーカー座の数を増やして解析を行った. 天然で交尾済みの雌6個体を用いて,親ガニの歩脚の筋肉,貯精嚢(10分割),ふ化幼生Z1(各親由来126-160個体)のそれぞれからゲノムDNAを抽出した.雌が複数の雄と交尾しているかどうかを調べるために,多型性の高いSCYO 7,SCYO9,SCY15,SCY39,SCY90の5つのマーカーを用いて解析を行った. すべての親子および遺伝子座について子供と母親の遺伝子型を照らし合わし,交尾した雄の個体数を推定した.その結果,どの雌においても子供の父親は1個体であり,推定された父親の遺伝子型と貯精嚢に残された精包の遺伝子型は一致していた.アミメノコギリガザミは雌が脱皮直後の甲殻の軟らかい時に交尾を行うことと,本研究で得られた遺伝的側面から推測される結果を合わせて考えると,雌の交尾相手の数は1個体またはかなり少ない個体に限られていることが明らかになった.この結果から,天然において雌1個体からは白然に雄1×雌1の子供が産まれる可能性が極めて高いと推察される.種苗生産・放流を行う際は,複数の親ガニを用いると遺伝的多様性に配慮できると思われる.また,種苗生産時に親ガニと子供のマイクロサテライトマーカーによる遺伝情報を把握しておくことによって,放流後の再捕の際に天然と放流種苗の区別に利用できる.
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