研究概要 |
放牧地植生の動態を予測し,草食家畜による植生管理技術を確立する上で,家畜の排糞を介した植物の種子散布現象の解明は重要である。今年度は,排糞地点環境の違いが糞中種子の発芽・定着に及ぼす影響について調査した。 1)シロクローバ(Tr),ケンタッキーブルーグラス(Pp)およびシバ(Zj)種子を舎飼牛の糞に混ぜ(1,500粒種子/1,200g新鮮糞),金網を敷いた草地上に設置した。日なた区(SS;光量子密度667μmol/s・m^2)と日陰区(US;光量子密度16μmol/s・m^2,寒冷紗で調整)を設け,6月21日-9月5日に発芽および枯死実生数を記録し,糞中の温度と水分量をデータロガーで測定した。SSでは糞中温度が40℃以上に達し,降雨に伴い水分量が変動したが,USの温度は気温と同程度の変化で,水分量はほぼ飽和状態であった。その際,PpおよびZjの発芽数はSS>US,TrではSS≒USとなったが,両区とも実生の大部分が調査中に枯死した。SSでは高温USでは日射量不足が実生を枯死させた可能性がある。 2)牧草地にSS(草高8-12cm)および過繁区(DP;草高30-40cm)を設けた。ミノボロスゲ(Cx),TrおよびPp種子をそれぞれ舎飼牛の糞に混ぜ草地上に設置し(上記1と同様),8月4日-9月29日まで1週間毎に発芽および枯死実生数を記録し,糞中温度と水分量を測定した。糞内の温度変化はDP<SSだったが,水分量に処理間差はみられなかった。その際,Cxでは発芽および生存実生数がともにSS>DPとなったが,Ppでは逆にSS≪DPとなった。Trでは両区とも実生の多くが調査中に枯死した。 不食過繁地のように糞塊が草高の大きい植物で囲まれることで,Ppにとっては種子の発芽と定着に好適な状況となるが,Cxでは日なたへの排糞が種子の発芽と定着に有利であることが示唆される。
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