研究概要 |
家禽の卵黄膜は哺乳類の透明帯に相当する細胞外マトリックスで,受精の際に,種特異的な配偶子間の結合に重要な役割を果たしている。哺乳類の透明帯の構成タンパクのほとんどが卵母細胞で生合成された後,卵子の細胞膜上に透明帯を形成する。これに対し,鳥類では主要な構成タンパクであるZP1とZPCが,それぞれ肝臓と卵巣という互いに遠く離れた組織で合成され,卵子細胞膜上で会合し繊維を形成するという特色を持っている。本研究では,この鳥類特有の現象に着目し,家禽卵黄膜の繊維形成機構を明らかにすることを目的とし,以下の成果を得た。 1.ウズラのZP1を哺乳類細胞株に発現させる実験系を開発し,各種変異ZP1を作製し,ZPCとの結合領域を特定することに成功した。ZP1はその分子内にZP domainという構造を有しているが,そのC末端部分に,ZPCとの結合を制御する領域があることが判明した。 2.この現象が,鳥類全般に当てはまるのか否かを明らかにするために,各種家禽ZP1遺伝子のクローニングを行い,アヒル,七面鳥およびホロホロ鳥ZP1遺伝子を単離することに成功した。配列の比較から,各種家禽ZP1は,ZPCとの結合領域であるZP domainのC末端部分に配列の相違が認められ,その結合には種特異性があるものと考えられた。 3.ZP1とZPCという2つの構成タンパクのみによって卵黄膜の繊維形成が生体内で調節されているとは考えにくい。そこでZP1あるいはZPCと特異的に結合する分子の探索をあらゆる組織について網羅的におこなった。その結果,急速成長期に入る前の未成熟な卵胞から調製したミクロソーム分画に,ZPCと強い結合親和性を示す新規タンパク(ZPC結合タンパク)が存在することを世界で初めて明らかにした。現在,この新規タンパクの特性を明らかにする実験を遂行中である。
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