研究概要 |
水中で機能するカリウムイオン(K^+)蛍光プローブとして,蛍光性シクロデキストリン(CyD)とベンゾクラウンエーテル誘導体からなる擬ロタキサン型プローブを開発した.強い蛍光を発するピレンを修飾したα-CyDと,ヘプチル基修飾ベンゾ-18-クラウン-6エーテル誘導体(B18C6)を合成した.これらの化合物は,α-CyDのヘプチル基包接作用およびピレンとベンゼン環との間のπ-π相互作用によって,安定な擬ロタキサンを形成した。この擬ロタキサンにおいて,ピレンの蛍光はB18C6からの光誘起電子移動によって消光されるが,B18C6がK^+と結合すると光誘起電子移動が阻害されてピレンの蛍光が回復し,K^+検出が可能となった.また,B18C6へのK^+の結合によってピレン蛍光スペクトルの形状が変化し,K^+とピレンとの間のカチオン-π相互作用の存在が示唆された.この結果は,CyDのアルキル基包接作用や芳香環同士のπ-π相互作用に加え,カチオン-π相互作用も水中での分子認識に寄与することを示しており,新規蛍光プローブ開発の指針となるものでもある. また,さらに安定かつ優れた情報変換能をもつロタキサンを合成するための基礎検討として,ジヘプチルビオロゲンのα-およびβ-CyDへの包接構造を紫外可視吸収および^1H-NMR分光法により詳細に解析した.その結果,従来ジヘプチルビオロゲンとCyDは1:1の包接体を形成すると報告されていたが,二つのヘプチル基が各々CyDに包接された1:2型の複合体を形成していることがわかった.また,配座については,CyDの二級水酸基側がビオロゲンに向いていることが明らかとなった.ビオロゲンは蛍光分子の消光剤として情報変換能をもつため,ビオロゲン誘導体のCyD包接体の構造は新規ロタキサン型蛍光プローブを設計するうえで有用な知見である. さらに,ポリアミンリンカーを介してピレンを修飾したγ-CyDが,水中で会合二量体を形成し重炭酸イオンに特異的な蛍光変化を示す,超分子型蛍光プローブとなることを見出した.
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